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コラボレート写真詩⑳ 『オルフェの月』 [コラボレート]

(詩作の背景) 

 ギリシャ神話の中のオルフェは、死んだ愛妻ユリディスを取り返すために、地獄へと向かいます。そして見事取り返しはしたものの、黄泉の国から地上へ、船で脱出するとき、悪魔に約束させられるのです。地上に帰るまでは、船の後ろに乗っている妻を、決してふり返ってはならぬ、と。

 けれどオルフェは、愛する妻が本当に船の後ろに乗っているのかどうか、確かめずにはいられませんでした。そして、彼は、地獄まで追ってきた愛する妻を、再び失ってしまうのです。

 この詩は、命を賭けて大切なものを求め、再び失うオルフェの姿と、私たちの「生きる」姿を重ね合わせ、人の生の一瞬の思いを描こうとしたものです。

(photo by baldheadさん) 

 

            『 オルフェの月 』

 

     ふり返ってはいけない 

    それでもふり返らずにはいられなかった

    それはオルフェの罪だろうか

 

    わたしたちの船は行く

    オルフェよりも遠い

    はるかな旅路を

 

    昨日は終わり 

    明日は予測もつかない

 

    ひと時で消える水脈を引き

    見果てぬ水の上を

    私たちを乗せた 船は行く 

 

    ふり返ってはいけないものを

    オルフェはふり返った

    どうして

    ふり返らずにいられようか

    舳先から

    確かなものはなにひとつ 見えないのだもの

 

    失いたくないものは

    いつもどうして

    後ろに あるのだろう

 

    引き返すことも

    降りることもできない

    時の船のわたしたち

 

    オルフェの悲しみは

    わたしたちの道しるべ

 

    ひとりで行き

    ひとりで還ってゆくオルフェを

    静かに導く 黄金の鏡

 

    わたしたちもいつか

    それを手に入れることができるのだろうか

 

    月は笑っていま 頭上にある 

 

(作者からあなたへ)

 ある日、baldhead さんのブログに入ると、そこに黄金の月が輝いていました。土佐の夜明け、自然がほんの一瞬かいま見せる、神秘の輝きです。雨の日も、曇りの日も、月は本当は毎晩雲の上に輝いています。私たちが気づかないだけで。

 私は昨年、篠突くような土砂降りの高知空港を飛び立ちました。そして飛行機が暑い雲を突き抜けたとたん、雲海の上に輝く、巨大な満月を見たのです。それは胸を突かれるような、神秘の光景でした。月は毎晩、私たちの頭上に、煌々と輝いていることを、そのとき知ったのです。

 私はいつも詩を、何度も、何度も推敲します。だから今日見たこの詩が、3日後、一週間後に、大きく変わってしまうことは、よくあります。それはどうかご了承ください。

 どんなことでも、この詩の何かがあなたの心に届いたら、ひと言コメントをいただけると幸いです。 今日は、閲覧、ありがとうございました。   mama-witch

 

 ←baldhead さんのトレードマーク  baldhead さんのURL は下記の通りです。 

                               http://blog.so-net.ne.jp/hage1010/ 

(「季節の移ろいを肌で感じてます」より)

 この写真は、baldhead さんの写真ブログの、カテゴリー「お空」の中の『月4様』からお借りした「かえりみすれば月かたぶきぬ」という一枚です。

 自然はほんとうに神秘。こうした月に実際にめぐり合えるのは、生涯でそう何度もないのではないでしょうか。私はbaldhead さんの撮る月を、いつもこっそり掠め取る「月盗人」です。

 

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コメント 10

Silvermac

オルフェの愛の大きさに感動しました。生きることの素晴らしさを実感しています。「無事の人」で生きていきたいものです。
by Silvermac (2006-04-15 06:57) 

mama-witch

silvermacさん、筆の遅い私の公開に、いつも真っ先に駆けつけてくださって、ありがとうございます。私たちはオルフェのように、してはいけないことを繰り返しながら、ふり返り、ふり返り、生きてゆくしかないような気がします。心だけは雲上に置いて、「無事の人」を目指したいものです。
by mama-witch (2006-04-15 08:53) 

コウダミナミ

こんにちは

えー・・・・
僕はここまで愛しぬくかどうかは
多分わかりません・・・・。
しかし出来るだけならば
愛しぬく事も可能かと思います。

今現在はそういう存在の方は
僕には居ませんがそのように考えました。
by コウダミナミ (2006-04-15 14:02) 

mama-witch

★いらっしゃい、ミナミさん。
 自分を愛する以上に誰かを愛することは難しい。
 どうしてこうしてくれないの? という不満は、こうしてくれないと「私が満足し
 ない」のよ、と言っているんだということに気づく人は少ない‥‥。
 気づかずに自分の満足を求めているということに多くの恋人たちが、親子が、
 友人たちが気づいたら‥自分の満足より、愛する人の幸せを願う人たちが増
 えたら‥争いごとはもっと少なくなるのにな、と思う今日この頃です。
 難しいことだけれど。
 オルフェは結局、自分が満足するように行動したんでしょうね。だから愛する
 人が自分についてきてくれる、ということを、信じきることが出来なかったので
 しょう。彼は、妻・ユリディスの幸せを、彼女の本当の幸せとは何かを、真剣に
 考えたのでしょうか?
by mama-witch (2006-04-15 19:15) 

素敵な写真です。 人はやってはいけないというものに逆らってしまう感情が出てきてしまうものですね。
オルフェのように失ってから気づくことが多く、でもそれを越えて成長しなくてはいけないのかな?
by (2006-04-16 15:56) 

mama-witch

★こんばんは、ポンさん。ほんとうに素敵な写真です。
 baldhead さんのこの写真から受けた感覚は、私のとても少ない神秘体験の
 デジャヴュです。それはポンさんの言う通り、失ったもの、でも忘れられないも
 のの追体験なのでしょうね。人はきっと、やってはいけないとわかっていて
 もやってしまう、哀しい生き物なんですよ。
by mama-witch (2006-04-16 18:50) 

Baldhead1010

やはり、人は弱いものですね。
私もたぶん振り返るでしょうね。
お月様、インスピレーションが湧けば、どんどん使ってください。
by Baldhead1010 (2006-04-19 16:32) 

yukki-

…私も多分、振り返ります
これまで何度「しまった…」を繰り返したかな…
第三者は「やめとけって言ったのに」って言うだろう
でも当事者は自分の心に従ってしまう
(他人の意見に天邪鬼のところはありますが)
でも、振り返らず手にしても
「どうしてあのとき、疑問にも思わなかったのだろう」って…
きっとどのように行動しても自分の中で
様々な思いが残るのでは?
逆に自分を信じてよかったって思うこともあったりと…
そしてそれを積み重ねていって
それが現在の自分だったりします
by yukki- (2006-04-24 22:14) 

笙野みかげ

「やってはいけない」と言われるからやってしまう、開けてはいけないと言われたトビラも玉手箱も開けられ、鶴は姿を見せ、浦島はおじいさんになってしまう。
でも、もしかすると、そうすることにより、心の中に永遠に留めておけるのかもしれない、と考えました。
オルフェはこの後ずっとユリディスのことから離れられなくなるに違いないもの。
最高潮の時点の想いを持ったままでいられるんだもの。
もしかしたらだけど・・・。
by 笙野みかげ (2006-05-18 10:43) 

mama-witch

★そう、思いたいものですね、みかげさん。
 でも、時は流れ、思いも記憶も薄れていく・・・。
 日々という、問答無用の現実のほうが、ただ一度きりの記憶よりは強い。
 人は強烈な体験を、決して忘れはしないけれど、記憶は書き換えられていくのです。全く同じことを体験した恋人同士の記憶も、時を経るに従って次第に違うものになっていくように。
 オルフェも、日一日と遠ざかっていく記憶に、とらわれている暇はないでしょう。「生きる」という現実は、それほどに厳しいので。
 オルフェは、地獄まで追っていったユリディスを、結局は信じ切れなかったのです。だからふり返って確かめずには居られなかった・・・。彼が胸に抱く思いは、何故信じることが出来なかったのか、という後悔で出来ていると思うのですよ。人がみなそうであるように・・・。
by mama-witch (2006-05-18 11:30) 

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