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時代小説の参考書 『江戸幕府役職集成』作家の本棚① [作家の本棚]

 これが時代小説の  参考書です。 

 

<「時代考証」について>

 テレビ・シナリオを書いていた時代、どうしても必要だったのが「時代考証」。

 当時書いていたのが「遠山の金さん」、「必殺仕事人」、「水戸黄門」‥‥。

 どうしたって江戸の暮らしへの、最低限度の知識は必要だったのです。

 で、必需品だったのが、三田村鳶魚/著「時代考証事典」と、この笹間良彦/著 『江戸幕府役職集成』(雄山閣出版)

 もちろんこれだけではダメで、江戸時代の各種文献や江戸落語、幕府資料、「国史大系」、「徳川実記」といった専門書にも眼を通さなくてはいけなかったのですが‥‥。

 なぜこの本が面白いかと云うと、まず何より解りやすくて面白い。

 専門書という堅苦しさは全く無く、ひたすら面白いのです。

 もしこの本が手元にあれば、多分時代小説の読み方が変わるでしょう。

 中身を少し紹介しましょう。まずは武士の「家禄」。つまりお給料について。

 

<武士の暮らしは大変だ!>

 みなさんご承知の通り、江戸時代の武士の給料は米払い。

 ○○石取りというのは、米が○○石取れる知行地(支配地)を幕府からいただいているということなんだけど。つまりは、しっかり自分の土地を管理して、お百姓さんに米を作らせないと、自分たちが食べられなくなるということです。

 細かなことはさておいて、取りあえずは百石取りの武士の暮らしについて、『江戸幕府役職集成』を紐解いてみると。

 こういう下層階級の武士の暮らしは、もう、大変だったのです。

 百石取りというのは、百石の米が取れる地域を拝領して、そこから上がる米で生活全般をやりくりしていかなければいけないのですが。

 百石取りの武士には”お勤めのとき、こういう格式を守らなければいけません”という「軍役表」なるものの取り決めがあって。

 「まず、戦場に出るときのために、槍は一本持っていなければいけません。また、お勤めに出るとき、すなわち登城の際には槍持ち・中間を連れていなくてはなりません」これで外出用の使用人は二人必要です。

     百石取りの武士の外出

 そして「家庭内には下女、下男を置きなさい」これで家用の使用人が二人。

 子どもが居なくて主人夫婦だけ、としても、合計六人は養わなければいけないわけです、百石取りは。ところが‥‥。

 米百石というのは、全部自分のものになるわけではなくて。四公六民といって、全体の60㌫は、働いてくれるお百姓さんたちに労働役として渡さなくてはいけない。武士の取り分は、百石のうちの40㌫、四十石しかないのです。

 しかもこの四十石を精米してもらうと、搗き減りして、大体三十五石にしかならない。俵に直して約百俵です。これで、使用人合わせて六人の所帯を賄わなくてはなりません。

 六人分の、一年の米の消費量を、大雑把に見積もっても九石はいる。残りは二十六石。仮に一石一両として、二十六両の金で家庭内だけではなく、対外的なことまで賄わなくてはならないのです。

 槍持ち、中間、下男、下女の給料を、当時の最低基準で計算して五両とすると、残りは二十一両。

 これに塩、味噌、酒、青物その他薬代に薪などを一年間、一人当たり二両とすると十二両かかり、九両しか残らない。

 これに主人と妻の夏冬の衣料代を、切り詰めて十両とみても、もう一両の赤字です。

 ところがこのほかに、病気するときもあれば、吉凶慶弔交際費もあるし、こうなると家の修繕、武器・武具の手入れなんて、とてもできない。

 槍一筋を持つだけの家格の下級武士でも、その経費は大変です。だからたいていは中間一人に下女一人くらいしか使えない。

 これが小藩の百石取り、やや中士の上といった百石取りの武士の生活ですが、中央官庁の幕府勤めとなると、二百石より下の、御家人といって御目見以下(登城しても、社長である将軍様には顔を合わせることもできない、ヒラリーマン)だと、徳川中期以降には、赤貧洗うがごとく、といった、どん底の借金暮らしになっていたのです。 

 これでは徳川幕府、倒れるべくして倒れた、と云うしかないではありませんか。

 というようなことが、役職別に実に細かく、しかも解りやすくかかれているのです。この『江戸幕府役職集成』には。

 だからつまり、これ一冊あると、時代劇や時代小説が、俄然面白く楽しめる、というわけで。

 別にアフィリエイトとどうこうしているわけではないし、大体こういう本がアフィリエイトで買えるかどうか、調べてないので解りませんが。

 時代劇や時代小説が好き、という方のため、また、時代小説を書いてみたい、などと目論んでいらっしゃる方のために、ちょっとご紹介してみようかと思ったわけです。

 この本はほかにも、老中や若年寄の生活、南町・北町奉行所の役職と活動、与力と同心の役割と生活、小伝馬町牢屋敷平面図、拷問蔵見取り図、地方大名の参勤交代のときには家来何百人・腰元何十人・駕籠何丁・馬何十頭を引き連れなければならないとか、江戸城や大奥の見取り図とか、いろいろ、いろいろ、テンコ盛りに書いてあって、ほんとに面白い。

   南町奉行所  入り口  

 まあ、日常生活にはあまり役にはたちませんが、たまには、こういう本を紐解いてみてはいかがでしょう。

         

             捕り物出役の同心と与力の服装

 


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コメント 9

おぉ!!全部観てた時代劇(*^_^*)
こんな本があるんですね、解かりやすくて面白いのが一番!
詳しくはないのですが、江戸時代の話は興味があります。 妹のほうが詳しく、欠かさず「水戸黄門」を観ています。 「鬼平」は二人で映画を観に行ったこともありますよ♩
by (2006-04-09 11:15) 

Silvermac

時代考証がしっかりしている映画は、中身も良いですね。私の曾祖父は幕末に五台山にあった吸江病院で「異人守護役」、半ば通訳のような仕事をしていたようです。祖父から良く話を聞きましたが、郷士ですから三石二人扶持だったとのことです。
by Silvermac (2006-04-09 14:06) 

mama-witch

 ★ポンさん、nice&コメントありがとう。
 こうした資料を紐解いていると、当時の暮らしが眼に浮かんできて、江戸が身近に感じられるようになります。そうなって始めてアイデアやプロット(筋立て)が浮かんでくるのです。江戸で遊べるようにならないと書けませんでした(笑)

★silvermac さん、nice&コメントありがとう。
 時代物を書き始めのころは、当時の生活がまるで解らなくて、頓珍漢なことを書いては、よく師匠に怒られたものです、勉強しろ!と。
 でも、勉強しているうちはまだまだダメで、資料が血肉になって、何を考えるときも江戸時代の距離や値段や食べ物が普通に出てくるようになったとき、やっと登場人物たちが動き出してくれたものです。昔も今も、「暮らす」と云うのは大変なことだったんだ、と共感しながら書けるようになるまでには、ずい分な月日を要しました。この本、買うとしても多分注文になると思いますが、手元にあると面白いと思いますよ。お薦めです。(5000円前後だったと思います)
by mama-witch (2006-04-09 18:20) 

幕府は、お侍さんにお金を使わせて
謀反を企てても実行できないように図っていたのかな??

それにしても、昔も今もサラリーマンの生活は
大変だったんですね(T_T)

この本、読んでみたいです。
図書館などにも置いてあるといいんですが。。。
こういう本、大好きです☆
by (2006-06-04 09:57) 

mama-witch

★シナモンロールさん、図書館にはあるはずですよ。
 ただなんとなく読み始めても、この本はとても面白い、と思います。読む前と、読んだ後では、時代小説の読み方が全く変わってくるはずです。単なる興味本位でもいいから、一度手にとってみることをお奨めします。
by mama-witch (2006-06-04 18:31) 

シナモンロール

コンビニでこんな本を見つけました。
「日本人なら知っておきたい
 江戸の庶民の 朝から晩まで」
こちらの方が簡単で読みやすそうだな、と思った。
500円くらいだったので買ってしまいました。。。^_^;

昔の人はどうしていたのかな??と考えるのが結構好きで
「王家の紋章」という超ロングセラーの少女漫画がありますが、
エジプトの事が詳しく描かれているので、つい楽しくて続きを
買ってしまいます。衣装も好き☆
ドールハウスを覗くような感覚といったらいいのかな。。。
今とはまったく違う生活様式だったのだから
こんなときどうしてたのかしら?と気になっちゃうんですね。

そして、今の生活様式もどう変化していくのでしょうね?
by シナモンロール (2006-06-09 11:54) 

mama-witch

★シナモンさん、どんな些細な興味でも、そこから広がる世界があって、ずっと続いていく興味もあれば、違う方向に広がっていくものもあります。いずれにしても、食って、寝て、遊ぶだけの生活より、考える時間を持つ生き方はとても大切です。考える時間は、男でも、女でも、妻でも、母でもない、人間としての、大切なプライベート・タイムですから。お母さんの知識は、向かい合う子どもたちが知らないうちに吸収していく、生きる上で最も大切な知恵という食べ物に変わりますから、できるだけいい加減ではない知識の吸収をお奨めします。
by mama-witch (2006-06-09 18:35) 

徳川家光

徳川実記ではなく徳川実紀ですよ。
間違える人多いですね。
by 徳川家光 (2016-06-22 17:24) 

徳川家光

PS
「国史大系」、「徳川実記(紀)」と分けてありますが、
実紀は国史大系の中に入っているものですよ。
国史大系の中には実紀以外に江戸時代に関する巻は無く、
分ける必要はありません。「公卿補任」は明治元年まで記されていますが、江戸時代の考証にはほとんど関係無いですから。
寧ろ、池波正太郎が長谷川平蔵の名を見つけ出したように、
「寛政重修諸家譜」が資料として絶対に欠かせません。
それと、「時代考証事典」ですが、鳶魚とありますが、
稲垣史生の間違いではないでしょうか?
勿論三田村鳶魚は江戸学の大家であり、その著作の重要性は言うまでもありませんが。
by 徳川家光 (2016-06-22 17:51) 

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