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ホタルの木 です。『2000年のノート』から。 [考えさせられた話]

   写メール、不鮮明でごめんなさ い。

 6年前。古い話です。記憶も定かではありません。でも、ノートにはこう書いてある。尾川正二( マサツグ)著 『極限の中の日本人』という本の中に、"蛍の木"というのがある、と。

 2000年5月10日(水) NHK 『地球に乾杯 「黄金の樹を見た~ホタル1万匹の大発光」』が放映されたようです。

 確かに見た記憶はあります。でも6年も前のこと。記憶はおぼろ。だから、ノートに貼ってあるTVガイドの切り抜き(写メール参照)を、丸写ししてみました。

『パプアニューギニアの熱帯雨林の中、闇夜に神秘的な光に包まれる不思議な樹がある。この光の正体は、エフルゲンスという固有種のホタル。

 大集団で同時に点滅したり、滝のように流れたり、渦を巻いたりして、不思議に光るホタルを、人々は、森の精霊の使いとして、崇めてきた。

 なぜ一本の樹に集まり、一斉に輝くのか?

 人々が大切に守るホタルの樹のナゾに迫る。』

 おお! 自分で自分のノートに刺激を受けてしまった。さっそく「ホタルの木」探訪を開始しよう。

 

<インターネットって‥‥> 

 まずは、ホタルの名前 「エフルゲンス」 の検索から。

 出てきたページの中から選んだのは、当然、「地球・ふしぎ大自然」のホームページ。ありました。私のメモよりはるかに詳しく、「ホタルの樹」について。

 だからその内容ををくだくだしく書くより、ダイジェストをほんの少しのほうが。

「撮影場所は日本から南へ五千キロ、赤道直下の島国・パプアニューギニアの中のニューアイルランド島にあるラムスムス村。

 新月の夜、この村のジャングルの中に建てられた古い教会の傍のマンガスの樹に、1万匹を超えるホタル(学術名はプテロプティック・エフルゲンス)が集まり、壮大な点滅を繰り返す。その様子はまるでクリスマスツリー‥‥」

(もっと詳しく知りたい方は、NHKのホームページをどうぞ。)

 バカな私はさっそく画面を写メール。いつものように不鮮明ですが、こんな画像を載せてみました。そしてついでに、昨年新宿高島屋の前で撮ったクリスマス・イルミネーションの写メールを、添えたりして。

   

 左側がホタルの樹。右側が新宿高島屋前のクリスマス・イルミネーションです。なるほど。でも、こんなに簡単に「知る」って、なんだかつまらない‥‥そう思ってしまったのは私のワガママでしょうか。

 こういう事実を知る前、私は心の中にとてつもない妄想を広げ、行ったことのない南国の未知の夜空の下、光り輝く「ホタルの樹」に、無限のファンタジーを感じていました。

 6年前心惹かれ、古いノートのこのページを開くたび、それこそ胸躍らせていたのに。胸躍らせていたものの実体を、妙に正確に、きちんと、知ってしまったいま、私の中から「不思議」の種がひとつ消えてしまったような、ひどく寂しいこの感覚はなんでしょう。

 知らなきゃよかったとは決して思いません。

 でも私は多分、いまでも月にウサギはいる、と思っていたいタイプなんです。シビアな現実より、夢と空想の余地を残した”不思議”のほうが好き。

 お話作りを生業とする私は、インターネットの素晴らしさの裏にある、なにか怖いものを見てしまったようで、落ち着かない気分です。

 

<「ホタルの木」に惹かれる人との出会い>

 知りたいことをアッというまに知ってしまったので、さて帰ろうとホームページを閉じたとき、もとの検索ページに、こんな言葉を見つけました。

だから僕はもう少しここにいることにするよ」 

 え ?  どうしてホタルのページに ?

 ためしに入ってみました。出てきた記事のタイトルは「ホタルの木」。

 おお 、ここにも! 

 読み進むと、NHKの情報とはまた違った角度から書かれた記事。私と同じ、個人的な思いから生まれた興味と関心があふれていて、とても面白い。

 でも、ホタルに続く記事の後には、彼の静かな日々を語る、静かな言葉が並んでいたのです。

 ブログの主は、もと花屋だったMakoteeさん。30代の男性。読み進むうち、「one  pice」というタイトル記事の中に、こんな記述が‥。

「本屋さんで、つい最近発売されたDVDを買った。「胸心術」という心臓手術の一部始終を収めた映像だ。自分の受けた手術がどんなものだったのかを知りたいとずっと思っていて、ちょうど大動脈弁への人工弁の装着過程が見られると知って買いに走った。

 映像を見ていると、かなり衝撃的でもあり、自分の心臓の辺りがズキズキ痛むような気がしたが、実際ちょっと痛かったが、それでも見ずにはいられなかった。人工血管を使う場面以外、ほぼ自分が受けた手術内容と同じ内容だった。病院で手術を受ける直前まで、いくら調べても、何度説明を受けても、不安と恐怖で活きた心地がしなかったから、事前にこういうものがあったら少しは気も楽だったかなと思った」

  彼には、10才年上の電波さんという友だちがいて、ときどき電話をかけてくるのだそうです。その電波さんが最近、13年も連れ添った愛犬を亡くし、ずいぶん元気を失くされている‥‥。

 彼自身、友人に「なんで別れなくちゃならなかったの?」と聞かれる、パートナーとの別離を経験していて、そのことを「長い鎖のようにいつまでも続くと思われた苦しい日々は、知らぬ間にいつか終わった。哀しみは湖の底に沈んで、手を触れることも出来ないほど遠ざかっていった。」と述懐されています。

 「ホタルの木」の記述に続く、電波さんと彼とのやり取りは暖かく、ほんとうに胸を打たれました。

 彼の部屋を出て、今度こそ自分のブログに帰ろうとしたとき、ふともうひとつの「ホタル」に気づきました。タイトルは「ホタル裏日記

 ついでに、と入ってみると、これが例のNHK「地球・ふしぎ大自然」のディレクター氏によって書かれた、取材裏話。

 2004年2月23日に再び放映されたらしい「ホタルの木」の取材を担当したディレクター氏の話は、別の意味で、と胸を吐かれる思いでした。

 実際に現場を調査してまわった彼の話は、画面には決して現れない、いわばボツ話。でも、マラリア蚊やダニと闘い、鼻をつままれても解らない闇の中、ドロにまみれながら光の精の子どもたちを探し回るカメラマンの姿や、「ホタルの木」と共に生きているからこその村人や子どもたちのエピソードは、気楽な観光客気分で、世にも珍しい「ホタルの木」に興味を寄せていた私の頭がガツンとやられるのに十分な、意味と内容にあふれていました。

その中のひとつ‥‥‥

<消えていく ホタルの木>

 この話は全文紹介させていただきたいと思います。

『条件さえよければ、ほぼ一年中見ることができるホタルの木ですが、いま急速にその数を減らしています。

 (横須賀市 自然博物館の)大場信義さんは、これまでに何度もパプアニューギニアで調査をしていますが、訪れるたびに観察できる場所が減ってしまっているそうです。

 大きな原因は、木材輸出のための伐採です。

 ホタルは、森の中でも高く目立つ木に集まります。当然そんな大きな木は、一番に目をつけられて、伐られてしまいます。一度木が無くなってしまうと、ホタルたちの出会いの場がなくなるため、そのあたりのホタル自体がいなくなってしまうのです。

 筆者注 : 2000年の私のノートには、こうメモってあります。

☆日本の木材会社が森の伐採権を買い、一年に50万本もの木々を伐り倒している。ホタルの集まるマンガスの木は利用価値が高いため、真っ先に伐り倒され、ラムスムス村ではもう、村の古い教会のそばの一本だけしか残っていない。

 ところが最近、ホタルの木に対する、もっと深刻な脅威があることがわかってきました。それはなんと「光」です。

 自分以外の光に非常に敏感なホタルたちは、周囲が明るいと、光るのを辞めてしまいます。つまりオスとメスは出会えず、子孫も残せなくなります。

 脅威は意外な盲点でした。普通は田舎道に街頭がつくぐらいのことで、自然が破壊されるとは思いませんよね。

 今回の撮影で、夜というのは「闇」の世界なのだ、と改めて気づかされました。パプアニューギニアも、最近では大きな町にはかなり電気が通うようになっています。それでも東京の夜とは比べ物にならないほど暗いのですが、周辺の予想外に広範な土地で、その光の影響を受けていたのです。

 もちろん、電気のせいだけではありません。

 私たちが訪れた村にも、大場さんが以前調査をした大きなホタルの木があったのですが、今回はまったくホタルが集まらなくなっていました。なぜかというと近所の家の一軒が「ランプ」を買ったからでした。

 村では、ランプを持っているというのはステータスなのか、毎晩軒先に吊るしたようで(ホタルが消えたのは)その影響だったのです。

 夜でも明るく便利な暮らし。現地の人たちが今後そういった豊かさを手に入れたいと思うのは無理のないことで、それをとどめることはもうできないでしょう。

 しかしいつかパプアニューギニアにくまなく電気が通ったら、ホタルの木は地球上から消えてしまうかもしれません。』

 たったひとつのランプの灯りに対応できず、消えていくホタルたち。

 この事実は、『夜』という言葉の意味を見つめ直す機会を、私に与えてくれました。このディレクター氏も言っているように、夜とは『闇』なのです。どんな明かりもない、自然の、真の闇の中でこそ、ホタルたちはお互いのかすかな光を見つけ合うことができる‥‥。

 いつだったか、大接近した彗星群を見にいったことがありました。私が住んでいるのは原宿。ネオンこそありませんが、いつも、星などひとつも見えないほどの空の明るさ。到底ムリだろうと思いつつ、流星雨と言われるほど大量の流れ星見たさに、駄目を承知で近所の代々木公園へと出かけたら‥。

 原宿駅までは、星などひとつも見えません。でも駅を離れ、代々木公園、つまり街灯を頼りの都会の暗闇に近づくにつれ、星が姿を現し始めたのです。

 公園の中は、真っ暗ではもちろんありませんが、竹下通りや原宿駅前とは比べ物にならない暗さ。見上げれば、都会にもこんなに星があったのか、と驚くぐらい、星が輝いていました。流星よりも、そちらのほうの驚きが強かった‥。

 ホタルの光がランプの灯りに負ける、わかるような気がします。

 <お願い、私が行くまで消えないで>

 「ホタルの木」というファンタスティックなキーワードに惹かれ、いそいそとインターネット観光に出かけた私。でもそこには、求めていた情報よりはるかに多くの”驚き”や”夢”や”現実”が隠れていて、私を考え込ませてくれました。

 日本の源氏ボタルより二まわりも小さいという”プテロプティックス・エフルゲンス”(下図が、NHH『地球 ふしぎ大自然』からお借りしてきたエフルゲンスの写真です)。彼らが作り出す「ホタルの木」が、どうか地球上から消えてしまわないようにと、祈るばかりです。

                  

 

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Baldhead1010

今でもこちら高知では天の川が見えますが、でも昔に比べると、かなり不鮮明になっています。
チベットの4000mぐらいから見た夜空に夢を馳せています。
by Baldhead1010 (2006-03-14 13:18) 

Makotee

私の日記を紹介してくださってどうもありがとうございます。
エフルゲンス、一度でいいから見てみたいですね。
by Makotee (2006-03-14 17:35) 

mama-witch

baldhead1010さん、いつも素敵な写真を見せていただいて、ありがとう。入るのがとても大変な人気ブログなので、私はいつも夜明け間近を侵入時間に決めています(笑) 今回の金星の写真はまるで夜空のホタル。よく掴まえましたね。それにシャッターチャンスへの土佐人らしからぬ強靭な粘り。だからこそ、 みんなが待ちかねるbaldhead1010ワールドが撮れるのでしょうね。私も粘ってまた侵入させていただきます。ではまた。次はSF童話を載せる予定です。

 Makoteeさん。勝手に日記転載して、すみません。エフルゲンスつながりに免じて、お許しください。お体、大丈夫ですか。寒い冬もやっと終わりますね。高知ではもう染井吉野が開花したそうです。電波さんは元気になられましたか。パートナーを失うのは辛いことですよね。お二人の暖かい付き合いが続かれることを祈ってます。私もときどきお伺いしますので、今後ともよろしく。
by mama-witch (2006-03-14 18:55) 

Makotee

こんにちは、mama-witchさん。いえいえ、とんでもないです。とても嬉しかったですよ。身体の方は一年間ゆっくり休養したので、もう大丈夫です。もうすぐ桜の季節ですね。私は毎年京都に観に行きます。電波親父は元気ですよ。相変わらず酒浸りですが(笑)。ようやく新しいワンちゃんが来たようで可愛がっているようです。

そうだ、私のホームページをお知らせしますね。
http://www.h5.dion.ne.jp/~makotee/menu.htm
になります。猫の写真やら京都の写真も置いています。
それから、日記というほどの量もないのですが、
http://www.mypress.jp/v2_writers/quietflame/idx/
に過去のものが置いてあります。自分で書いておきながらアレですが、おすすめは「pink」です。「サトラレナイ」や「クリスマス・プレゼント」もわりといい話です(笑)。お時間ありましたら、またいつでもいらして下さいね。

私もいつか自分の書いたものを本にしたいなぁと考えています。
今後ともどうぞよろしくお願いしますね。
by Makotee (2006-03-15 20:39) 

笙野みかげ

こんにちは。みかげです。
日本ではあと一ヶ月もすると、ホタル観察の時期です。
ホタルが見られる場所にはよく「車のライト厳禁」の看板が置いてあります。
勿論、懐中電灯もダメです。
どうしてもという時には、赤いセロハンを懐中電灯にかぶせるといいですよ~。
「ホタルの木」のことは知っていましたが、こういうものこそ、ずっとずっと大事に残しておきたいです。
by 笙野みかげ (2006-04-20 14:40) 

「ホタルの木」は神様が人に与えた
「灯り」で、
それに変わる灯りが「ランプ」??
などと考えてしまった。。。(・_・;)

でも、結局は「ホタルの木」みたいなものを
人は作るんですね。。。
写真の雪だるまのように・・・
by (2006-05-12 19:36) 

mama-witch

 子どもの頃ホタル狩をしたことのある子どもと、したことの無い子どもでは、何かどこかが違ってくるのでは?などと思うことが良くあります。それほどに、暗闇の中のホタルは神秘的で美しいし、何より、人間を少しも疑わずに、胸や髪の毛、手の平にまで止まってくれるあの優しさを知ったら、虫を殺すことに大きなためらいを感じる心が育ってしまいますから。いま、日本のあちこちでホタルを復活させ、大切にしようとする運動が広がっていますが、それはひいては、日本中に清流が復活するということですよね。そして、優しい子どもが増えるということでもあって・・・嬉しいことです。
by mama-witch (2006-05-12 20:19) 

そうですか。。。
私には残念ながらその経験はありません。
一度体験して見たいのですが・・・
きっと、素敵でしょうね。。。

「暗闇」といえば、祖父母の家は北海道の山の中・・・
夜といえば、「闇」でした。
外灯はありましたが、明るいのはその周囲と民家の明かり
くらいで。。。あとは真っ暗です。
何が潜んでいてもおかしくないような・・・・
だけど、夜空を見上げれば満天の星。
きらきらと輝くダイヤモンド。
星降る夜とはよく言ったもので・・・

あまりの星の数に、頭上に落ちてきはしないかと
本気でおびえた事もあったけ・・・
しかもとてもはっきり見えるから怖かった。。。
でも、これは一度北海道を離れて都会に住み
再び帰ったときの感覚だけど。。。

「優しい子ども」が増えてやがて「優しい大人」になる。
すると、いずれは世の中が住みやすくなるかしら・・・??
by (2006-05-12 21:01) 

mama-witch

 そうですね、でもその前に、まず大人が優しくならなくては、と思います。
 優しくなるのは、とても難しいことです。何が優しさなのかを、きちんと踏まえることが、なかなかできない。怒らないことや、猫なで声で話すことが優しさだと、カン違いしている大人たちがたくさんいます。私が生きてきて、あの人は本当に優しかったと思える人たちは、一律に厳しかったし、しょっちゅう怒っていました。他人や子どもにではなく、自分に向かって。自分の至らなさに対する怒りを持つことこそ、他に優しく生きることの原点であるような気がします。
by mama-witch (2006-05-14 07:46) 

Silvermac

mama-witchさん、ホタルの記事を読ませていただきました。私達が子供の頃は、田圃の傍の小川で沢山のホタルを見かけたものです。ホタルが生きられる環境が殆どなくなりました。しかし、最近になって、ホタルの育つ環境を再生し、成功したところがあります。いの町の隣の日高村(現在は、いの町)がそうです。昨年そのことを知り、撮影しました。初めての経験ですからよい出来ではありませんが、ご覧頂ければ幸いです。
http://blog.so-net.ne.jp/ryofu/2005-06-01-2
 追伸 「版木」は時々行きますが、甘いものは控えています。ご主人は、私の妹と料理学校で一緒だったとのことです。
by Silvermac (2006-05-26 14:05) 

mama-witch

★silvermac さん、嬉しいお誘いありがとうございました。早速伺わせていただきました。まるで、生まれたての人の魂が群れ集っているようなホタルの乱舞。それを包み込む、自然の暖かさ。とても優しく、美しく澄んだ写真に、感動させていただきました。この美しい風景を蘇らせ、守り育ててくださっている方々の苦心とご苦労に、心からのお礼を申し上げたいと思います。
by mama-witch (2006-05-27 11:51) 

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