金魚坂の『ピンポンパール』 ? [見た話]
「不思議な時計」でも書いたけれど、昔、金魚に狂って、700匹以上も飼っていたことがある。
部屋の中はもちろん水槽だらけ。
大は横幅が1㍍50㌢を超えるものから、小さくても横幅70センチ以上。それが玄関入ってすぐの廊下にひとつ、寝室にひとつ、居間に3つ、ベランダに2つ。
ベランダには拾ってきたベビーバスとプラスティックの風呂桶が、デン、と据えてあり、こちらは大部屋。
種類も大きさもまちまちのハネ金、つまり豪華水槽に入れるにはちょっと‥という、ハネられた金魚たちの雑居房になっていた。
大型水槽の金魚たちは、多分みなさんが、これまで見たこともない、というだろう大きさで。我が家でいちばん大きかった金魚姫の硫金なんか、頭からひらひらの尻尾の先まで、ゆうに30㌢はあった。これが我が家最大の水槽に1匹。そう、たった1匹である。
水槽に水草は入れない。泳ぐ邪魔になるから。
敷石もしない。フンや水垢が溜まって水が汚れ、病気発生のもとになるから。小さな素焼きの鉢にほんのわずか、口洗い用の小石を入れ、沈めておくだけ。
火山岩でできた、お飾りの竜宮城みたいな、特に水車付きのなんか、言語道断 ! 金魚たちの体を傷つけてしまうではないか。
こうして水槽の中には大きな金魚1匹と、小石の入った素焼きの平たい植木鉢だけとなり、金魚姫はひたすら優雅にゆったりと、誘惑の舞を踊るのです。
その動きを眼で追っていると、知らず知らず、催眠状態に陥るらしい。
ウチに出入りのシナリオ見習いの子なんか、来て水槽の前に座ったのが午後1時ぐらい。で、私に呼ばれてハッと気づくと夕方7時、なんてよくあったなあ。
また金魚というのは不思議な生き物で、水槽の大きさに合わせ、自分の成長をコントロールする。ええ、住環境って大事なんですよ。特に育ち盛りの子どもにとってはね。
夜店の金魚を小さな水槽に大量に入れると、何年たっても、ちっとも大きくならない。お互いに生き残るために、自分たちの成長を止めてしまうから。
つまり、血統のいい子を、そこそこ立派に育てたければ、超大型水槽に1匹だけ、とこうなるわけ。ええ、過保護ですとも。姫と殿たちですもの。
そもそも何故またそんなに金魚に狂ったのかと言えば、原因はごく平凡で。
当時小学校4年生だった我が家の長女が、夜店ですくってきた赤い和金と黒出目金が発端だった。ビニール袋に入った金魚たちを、とりあえず洗面器に移し、しぶしぶ水槽を買いに行った‥‥ところが悪かった。そこのオヤジさんは、町の普通の金魚屋さんとは、ちょっとばかり違っていたのだ。
ちょっと事情を話したら、開口一番、「そんなもなぁ、金魚じゃねぇ」
いえ、でも、あの、いちおう水槽が欲しいんですが‥小さいの。
「あるよ。売ってやるよ。だけど金魚ってのぁな、ちょっとこっちへ来な」
連れていかれた店の奥。高さ70 ㌢、横幅1㍍80㌢の水槽の中には‥ええっ、これは何なんだ !
「金魚ってのぁな、こういうヤツを金魚っていうんだ」
得意満面 !
そりゃそうだ。その豪華マンションみたいな水槽にたった一匹泳いでいらしたのが、後に我が家 1 番の 金魚姫 『マド』 として君臨することになった硫金。
「よく見ろ、硫金っていうのぁな、まず体がこう、窓みてぇに真四角でなくちゃいけねぇ。それから腹だ。腹は真っ赤でなくちゃいけねぇ。つまり全身真っ赤、それが硫金だ。背中は赤いが腹が白、なんてヤツはな、カツオってぇんだ、硫金じゃねぇ」
ここのオヤジさんは、王道を行く、筋金入りの金魚屋だった。
何しろ普通の金魚がほとんどいない。タタキと呼ばれるコンクリートの大きな池が4つもあって、見たこともない種類のでかい金魚がうようよ泳いでる。
「そいつぁな、丹頂ってんだ。体が白で頭のテッペンが赤いだろ。だから丹頂鶴の丹頂。そっちは浜錦、まあ、3色の硫金てとこかな。おう、そっちは朱文金、茶色の金魚で、尾が長ぇとこがいい。そっちは羽衣、フナ色で地味なんだが、尾っぽはもっと長くなってな、そう、天女の羽衣みてぇだろ。そりゃあ天頂眼。頭の真横に眼がついてるだろ、上しか見えねぇから、いつもエサぁ食いっぱぐれるんだ。これは東錦、こっちはパール、中国の金魚でうろこが真珠を二つに割ったような感じだ。おい見ろ、こいつが金魚の王さまランチュウだあ」
いやもうタテ板に水。質問なんてしようもない。で‥‥。
一年たたないうちに、我が家は金魚水族館。
出目金だって、赤、黒、3色、竜眼、それぞれ2匹づつ。全部手のひらに乗らないぐらいの大きさ。なかでも竜眼という中国の出目金は、目が三角に飛びだしてる。
ついには金魚の特産地、奈良の大和郡山まで買出しに行って、念願の土佐金(コイツは金魚の叶姉妹。真っ赤なイブニングドレスに身を包んでる)を手に入れてくる始末。
え ? いまでも飼っているのかって ? いやそれが‥‥。
当時一緒に住んでいたTVのシナリオ・ライターが、女作って逃げ出したとき、全部の金魚を持ち逃げしてしまって、ハネ金一匹残っていない、のです
以来20年。逃げた男も金魚も忘れるのに十分な時間が過ぎて、読書三昧、書き物三昧の、平和な日々を送っていたら‥‥出会ってしまったのです。え、いえ、別れた男に、ではなく、金魚に !
それは2006年1月14日。本郷にある『金魚坂』で。
ここはタタキを持つ本格的な金魚屋さんがやっている喫茶店兼レストラン。
出会った金魚の名前は、 ピンポンパール
嘘ではありません、ほんとに、ピンポンパールっていうんです。
ヒレは短く、体はまん丸。ほんとにまるきりピンポンの玉。赤いのやら、3色のやらが中型の水槽にうじゃうじゃ泳いでて。もう、どうしようってくらい、可愛い!
見つけたのが夜で、写メールには映せなかったので、近々また『金魚坂』に出かけて、取材ついでに名物の真っ黒なブラックカレーを食べてこようかな、って思ってます。
でも、私の取材を待ちきれないせっかちな方、また俺が先にピンポンパールをデジカメ取材してきてやる ! 、という、好奇心旺盛な方のために、『金魚坂』の住所と電話番号をお教えしときましょう。
金魚兼喫茶店『金魚坂』 東京都文京区本郷5-3-15 ℡ 03-3815-7088
最寄の地下鉄は 「本郷3丁目」 駅。ちなみに、東大赤門のすぐそばです。
それにしても欲しいなあ、ピンポンパール。
mama-witchさん、面白い!
この金魚屋のオヤジいいな。こういう職人肌のガンコ親父ってなんか懐かしいですね。大工、畳屋、植木屋などなど。
それにしても金魚を700匹飼うmama-witchさんも凄いけど、それを全部持ち逃げする男も凄い・・・・。
ピンポンパールの写真撮れたら絶対見せてください。すごく楽しみ。
by (2006-03-12 11:50)
金魚もフナから改良したものらしいから、池の中で放し飼いにすると、びっくりするほど大きくなりますね。
by Baldhead1010 (2006-03-13 15:03)
威勢のいい金魚やさんがいる物ですね。
勢いで3枚におろしてしまいそうですね。
ピンポンパール・・・気になりますねぇ・・・名前通り可愛いのでしょうか。
by pp48 (2006-03-13 22:05)
3枚におろしそうって・・・(爆笑)
cheeseさんのコメントにもnice!です。
今その威勢のいい金魚やの親父さんはお元気なのでしょうか?
一度お会いしてみたいものです。
by liv-mucha (2006-03-16 08:35)