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ロードムービー童話 『北の カリヨン』 [童話]

               『北のカリヨン』

北国の村を、大きな貨物自動車が走りぬけました。自動車が行ったあとに、小さな金いろのベルが落ちています。お父さんといっしょに歩いていた、幼い女の子がそれをみつけ、頭につけていた赤いリボンを、そっと結びました。女の子のお父さんは、これから遠くの町に、働きに行くのです。女の子は、リボンのついたベルをお父さんにわたし、こう言いました。「あたしのこと、忘れないでね」

               

お父さんは、毎日の仕事が終わるとベルを取り出し、北国の村で待っている女の子のことを思い出します。ベルはリンリンと、忘れな草のような音をたてて、つかれたお父さんをなぐさめてくれました。

下宿やの男の子は、美しいその音色を聞いて、ベルがほしくなりました。そしてある日、お父さんが出かけたすきに、こっそりベルをぬすみ出し、かくしてしまったのです。

ベルをなくしたお父さんは、女の子に会えなくったようで、さみしくてたまりません。でも、男の子も、がっかりです。ぬすんだベルは、どうどうと聞くことなど、できませんから。

しばらくするとお父さんは、働きすぎて体をこわしてしまいました。来たときとおなじに、小さな荷物をもって、村に帰って行きます。男の子は大よろこびです。「これでやっと、あのベルの音が聞けるぞ」けれど、くらい、しめった場所にかくされていたベルには、うっすらとサビがうき、もうあの澄んだ音色では、鳴ってくれません。男の子はおこって、下宿やのまどから、ベルをなげすててしまいました。

町を歩いていた一人ぐらしのおじいさんは、道ばたで、なにか、キラリと光るものをみつけました。ひろいあげてみると、うすくサビのういた、小さな金いろのベルです。おじいさんは家にもってかえって、ていねいにサビをおとし、ベッドのまくらもとに、つるしてみました。するとベルは、またリンリンと、澄んだ音色をたてはじめたのです。

そのばん、おじいさんは、ふしぎなゆめをみました。いつのまにか、すっかりわかくなって、であったころのようにかわいいおばあさんと、町はずれの森の小道をさんぽしている夢です。もうとっくにしんでしまったはずの仲間たちも、ニコニコいっしょにあるいています。うれしくてとびおきると、あのベルが、まくらもとで、かすかに鳴っていました。おじいさんは、遠くの村に住んでいるまご娘のことを、ふっと思い出し、このベルの音を、ぜひとも聞かせてやりたくなったのです。さっそくベルをきれいなはこに入れ、郵便局にもっていきました。

若い郵便やさんが、夏のあつい道路を、自転車で走っています。一日中走りまわって、すっかりくたくたです。するとどこからか、リンリンと、すずしい音が、聞こえてきました。音は、肩からさげた郵便ぶくろの中から、聞こえてきます。郵便やさんは、土手にこしをおろし、その音に、じっと耳をかたむけました。すると、ずっとむかし、この町を出ていった、なつかしい女友だちのことを思い出したのです。「そうだ、こんや、あの子に手紙をかこう」 郵便やさんは、自転車にとびのり、もういちど元気よく走りだしました。

北国のとなり村にすんでいるおじいさんのまご娘は、小包みからでてきたきれいなベルを見て、大よろこびです。まご娘には、とても仲のいい、お友だちがいます。けれどその友だちのお父さんはいま、とてもおもい病気にかかっているのです。しずんでいるその子に、このすてきなベルをプレゼントしたら、きっと元気をだしてくれるにちがいありません。

女の子は、となり村の友だちからとどいたおくりものを見て、びっくりしました。いそいで、お父さんのところに走っていきます。「お父さん、ほら見て、あのベルよ、あたしたちのところにかえってきたのよ」 ベルには、すこしくたびれた、あのときの赤いリボンが、まだついたままでした

きょう、丘の上の教会に、カリヨンがやってきます。カリヨンは、たくさんのベルをくみあわせた音楽塔です。病気のなおったお父さんは、すこし大きくなった女の子の手をひいて、ゆっくりと丘をのぼってゆきました。この小さなベルを、カリヨンの仲間に入れてあげるために。

北国の村の丘の上から、すてきなカリヨンの音色がひびいてきます。 きょうは女の子のけっこんしきです。とても元気になったお父さんに手をひかれて、とても大きくなった女の子が、真っ白なドレスに身をつつんで、丘をのぼってゆきます。あたりにひびくカリヨンの音色に、女の子が、ふとかおをあげました。じっと耳をすませ、なにかを思い出そうとしています。「なんだか、とってもなつかしい音‥‥」 お父さんも、じっと耳をかたむけます。でもそれは、ほんのわずかなできごとで、二人はまた、なにもなかったみたいに、丘をのぼりはじめました。ずっとむかし、二人のしあわせをまもってくれた、あの小さな金いろのベルが待つ教会をめざして。

 

 

 

 

 


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コメント 5

liv-mucha

とっても素敵なお話ですね。
女の子のお父さんを慕う気持ちが、周りの人々に伝播していく展開が
とても素敵でした。
なにより、そのベルを受け取った皆が
「ほかの誰かに」送るというのがいいな、と思います。
ラストで、ベルのことを忘れてしまったのは残念ですね。
いままでも、これからも、ずっと町の人々にそんな気持ちを起こさせる
音を響かせてくれていたらいいのにな。
by liv-mucha (2006-03-09 15:28) 

mama-witch

★昔、小さな女の子だったありすさん、nice!&コメントありがとう。
 残念なことに人は、人生に起きるいろいろな試練をあまりにたくさん経験するうち、昔あった小さな出来事を思い出せなくなってしまいます。
 でもそれは決して忘れたのではなく、今の幸せを築くために必要な、大切な積み石のひとつになっただけなのです。ベルは昔と同じ音色で、今も鳴り響いています。二人の心の奥深くで。
by mama-witch (2006-03-20 06:22) 

liv-mucha

ベルだけが、鳴り響いているんですね・・・
大人になると忘れてしまう、なんて、
なんだか切ないです。
by liv-mucha (2006-03-20 10:24) 

大変よいお話でした。
ベルが次々と人の手に渡り
やがて元の持ち主の元へと帰ってゆく。。。
私には、ベルの意思がそうさせたように思えました。

それにしても、物語をかける人が羨ましいな。。。
ブログをはじめる事で、自分のボキャブラりーなど
足りないものが見えて、また他人の記事を読むうちに
いろんな感性に出会い。。。
子どもの頃、読書よりもその辺を走り回る方が好きだった私は
子育てを経験するまでは殆ど本を読みませんでした。
でも、今はゆっくり本を読む時間もないし。。。
だから、こうして物語を読むことができる事に感謝しています。

とくに、小説のたぐいは実は殆ど読まないんですよ。。。
童話や絵本、エッセイ、金子みすずの詩は好きです。
あと、ハリー・ポッターにも一時はまった事が。。。^^;
でも、一方では瀬戸内寂長さんの女源氏物語や源氏物語を
読んだりして。。。
(他の人が書いたものは、どれも最後まで読まなかったけど・・・)
言葉が、表現がとても美しいので好きなんです。
読んでいると、見た事も無いのに平安の美しい景色などが
脳裏に浮かんだりして。。。
それに、あんなにたくさんの女性を描き分けるなんてすごいな。。。なんて、ね。
台詞の長さもすごいなと感じるのは、あまり本を読んでいないせいかしら??
昔の人はよく泣くな。。。とも思う。
あの描写でかなり官能てきなのもすごいと思う。
長々とすみません。
by (2006-05-10 23:18) 

mama-witch

シナモンロールさん、丁寧なコメント&nice ありがとうございます。
 本を読む、と云うのは出会いだと思います。人が、好きな人や、嫌いな人と出会うように、本もまた、好きな本、嫌いな本と出会う、ただそれだけの事だと、私は思っています。たとえ一冊でも、心が震えるような本に出会えれば、人はその本を心の中でいく度も反芻し、繰り返し、繰り返し、読み続けるのではないでしょうか。数多くの本を読むのもいいですが、決して忘れることの出来ない一冊の本を、心の中で生涯かけて読み続けるのもまた、素敵な読書方法だと思います。どんなことも、これが一番いい方法、なんてないと私は思っています。
その人にとってベストなやり方が、きっと一番いいのです。百冊の本をそれぞれ一回ずつ読むのもいいし、一冊の本を百回読み込むのもまたいい。どちらのやり方でも、そうすることで、きっと何かを得るでしょうから。
 得たものや感じたことを、人に伝えることができたら、それを人は作品と読んでくださる。だから感受性の豊かなシナモンロールさんも、きっと物語が書けると思いますよ。
by mama-witch (2006-05-11 20:53) 

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